オーストラリアでは、一般市民が受講可能な12時間の「メンタルヘルス・ファーストエイド(Mental Health First Aid; MHFA)」とよばれる心の応急処置の方法を学ぶプログラムが開発されており、国民に広く普及しており、国民全体のメンタルヘルス向上に貢献しています。米国・英国などでもMHFAは国家プロジェクトとして教育現場などに取り入れられています。MHFAでは、講義だけでなく、スモールグループでの議論、ロールプレイなど体験型学習によって、具体的な対処法を習得することができます。
私たちは、2007年にMHFAを日本に導入し、MHFAのエッセンスを震災支援事業や自殺対策事業に取り入れてきました。本邦のニーズに合わせて様々な領域においてMHFAを活用した短期教育研修プログラム開発も推進しています。MHFAが日本全体に拡まることで、国民全体のメンタルヘルスが向上することを願っています。
MHFA-Japan 代表 大塚 耕太郎
MHFAプログラムのエッセンスを詰め込んだ一般向けのテキスト
メンタルヘルス・ファーストエイド こころの応急処置マニュアルとその活用
うつ病、不安障害、精神病性障害、物質(アルコール・薬物)関連障害といった主要なメンタルヘルスの問題ごとに症状や原因などの基礎情報をコンパクトに解説し、いざというときの対応を「り・は・あ・さ・る」の5つのステップに分けて伝授する。米英ほか多くの国で使われている、オーストラリアのプライマリ・ケア国家プロジェクトのテキスト。心理・医療・保健・福祉など、メンタルヘルスにかかわる職業の方は必携です。
詳細は「出版社のページ」をご参照ください。
- このサイトで紹介する「こころの応急処置」マニュアル(メンタルヘルス・ファーストエイド マニュアル)は、オーストラリアで開発されたMental Health First Aid (MHFA) をもとに作成されたものです。
- 私たちMHFA-Japanチームは、メルボルン大学で、MHFAプログラムを受講したうえで、そのマニュアル (原著者Betty A Kitchener and Anthony F Jorm (2002): Mental Health First Aid. ORYGEN Research Centre, Melbourne. Australia) を翻訳し、原著者らの許可を得て、日本の現状に合うように改訂しました。
- 日本語版の作成にあたっては、原則として原版のマニュアルを忠実に翻訳しましたが、精神疾患の有病率や、医療制度に関する部分などは本邦の現状に合うように補足しました。
- 日本では、私たちMHFA-Japanチームが、本プログラムの日本語版の開発および実証研究を2006年から行っています。オリジナルのMHFAプログラムを受講し、日本における導入法について原著者のJormやKetchnerのコンサルテーションを得ています。
- オーストラリアのマニュアル改訂に基づき、平成27年に日本語マニュアルおよび資料も第3版に改訂しました。これに伴い、平成27年からの受講者の認定名称、要件を変更しました。
- 今後のプログラム開催予定に関しては、「お知らせ」コーナーで随時アナウンスしております。
プログラムの概要は、こちらのページを参照ください。
→ mhfa.jp/about-us/program/
医療従事者向けプログラム
医療現場では、精神科に限らず多くの診療科で患者の抑うつや自殺リスク評価が重要です。MHFA-Jチームは、医師、研修医、看護師向けの2時間のMHFAベースの教育研修プログラムを開発中です。国内の2つの施設で実施したパイロット試験(コントロール群なし)で、特に看護師と研修医に効果がある可能性が示され、成果は2018年1月号のJournal of Affective Disordersに掲載されました。
Nakagami et al. (2018) Development of a 2-h suicide prevention program for medical staff including nurses and medical residents: A two-center pilot trial
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0165032717307243)
働く人のためのメンタルヘルス・ファーストエイド 実践ガイド
メンタルヘルス・ファーストエイドのプログラムにもとづき、働く人のメンタル不調をどのように早期発見し、適切な対応につなげるかをまとめた実践書です。うつ、不安障害、精神病性障害などの事例を取り上げ、会話のロールプレイを通して、どのように対応すればよいかをわかりやすく解説しています。5つのアクション「り・は・あ・さ・る」を理解することで、傾聴の仕方、リスク評価、適切な情報提供、セルフヘルプの方法などを習得できるガイドブックです。
職場のメンタルヘルスの問題に日々対処している上司の方、人事担当の方、産業保健師の方はもちろん、メンタルヘルスの問題を抱える方を同僚に持つ職場の方々にもおすすめの一冊です。
詳細は「出版社のページ」」をご参照ください。
会社員向けプログラム
近年、職場でうつ病などメンタルヘルスの不調を抱える社員が増えており、その対策は喫緊の課題です。MHFA-Jチームは、うつに対するMHFAのエッセンスを基にして、一般企業の社員がメンタルヘルスの不調を抱える同僚や部下に適切に関わるための知識とスキルを具体的に習得可能な教育研修プログラムの開発をすすめています。多忙な社員でも受講しやすいように2時間の暫定プログラムを作成し、その効果検証をパイロット試験(コントロール群なし)として実施しました。プログラムの前後と1ヶ月後で、受講者にアンケートへ回答してもらったところ「メンタルヘルス不調者へ対応するスキル」と「不調者へ関わる上での自信」の向上を認め、その効果は1ヶ月後も続いていました。「メンタルヘルスの不調に対する偏見」は、プログラム受講後に低下していました。これらの結果から、社員に対して本プログラムが有効である可能性がパイロット試験として示されました。成果は2018年12月にオープンアクセスのPLOS ONE誌に掲載されました。
Kubo et al. (2018) Development of MHFA-based 2-h educational program for early intervention in depression among office workers: A single-arm pilot trial.
(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0208114)
ひきこもり家族向けプログラム
社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)は近年の内閣府の調査で少なくとも110万人存在するとされ、重大な社会課題となっています。ひきこもり状態にある方は自分から支援を求めることが少なく、多くの事例で家族が最初に支援につながるため、適切な家族支援の開発が重要です。MHFA-Jチームは、国内のひきこもり臨床研究・支援のスペシャリストと協働して、家族がひきこもり状態にある方に適切に関わり、支援につなげるための「家族向けプログラム」を開発しました。プログラムは1回2時間、全5回で構成され、週に1回の頻度で実施しました。21名の家族を対象に九州大学でプログラムを実施したところ、メンタルヘルス・ファーストエイドに基づいて抑うつ症状を示すひきこもり状態にある方に関わるスキルが向上しました。また、メンタルヘルスの不調に対する偏見が低下しました。さらに、プログラム受講後6ヶ月で、ひきこもり状態にある方のうち約2割が支援につながりました。その中には、就職活動を開始した方もいました。この成果は令和2年1月にオープンアクセスのHeliyon誌に掲載されました。
Kubo et al. (2020) Development of 5-day hikikomori intervention program for family members: A single-arm pilot trial
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844019366708)